エピペンは、アナフィラキシーショックを起こす危険性が高く、万一の場合に直ちに医療機関での治療が受けられない可能性がある患者さんに対して、事前に医師が処方するアドレナリン自己注射薬です。日本では初め、エピペンの使用は患者さん本人、患者さんの保護者、医師に限られたものでした。しかし、患者さん本人が重度のアナフィラキシーに陥ったために自己注射ができない場合に、周囲の家族や関係者が本人に代わって注射できるような制度が確立されることが期待されていました。
2008年に日本学校保健会から発行された「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」では、学校においてエピペンを使用する必要のある生徒本人が打てない状況では、救命の現場に居合わせた教職員が児童生徒に代わって注射することは人道上許されると記載されました。さらには、本年(2009年)春には、救急救命士がアナフィラキシーショックの患者さんに対してエピペンを使用できるようにもなりました。
当初は私も、「本当に学校の先生が打てるのか?」と考え込んでしまいました。
ともすると、制度だけがどんどん決まっていくようにも思えてしまいます。
しかし、「できる時期が来たら制度を作る」のではなく、「制度を作ればできるようになる」のかもしれないのです。アナフィラキシーの患者さんをアナフィラキシーショックによる死亡から社会全体で守るという強い社会正義の精神が重要であり、これらの法制度改正にご尽力されている先生方を尊敬致します。
そもそも、エピペンという薬剤の役割を誤解していると使用の意義もわからないということになってしまいます。エピペンは、アナフィラキシーで瀕死の状態の患者さんに使用する最終手段ではなく、アナフィラキシーの「初期治療薬」です。アナフィラキシーの早期の症状が軽い段階で使用した方が、よい結果が生まれるのです。