我が国の喘息診療ではしばしば過小治療・治療不足(under treatment)が問題となります。よく言われるのは、吸入ステロイド薬の普及率が低いということです。ゼーゼーして救急受診や入院を繰り返しているのに吸入ステロイド薬を基礎とした十分な予防的治療を受けていないとしたら、明らかに過小治療と言えます。抗炎症治療をしっかりと行い、喘息症状が全く出ないように治療・管理していくのが標準的治療と言えます。
しかし、私がどちらかといえば気になるのは過剰治療の方です。いや、本当は喘息ではないのに喘息の治療を受けているとしたら過剰診断と言った方が適切かもしれません。患者さんからすると、過剰診断は誤診と言った方が分かりやすいかと思いますが、医療者側から弁解させてもらうとすれば喘息の診断は患者さんが考えている以上に難しい場合もあるのです。
先日受診された患者さんはすでに10歳に達していましたが、2歳の時に喘息の診断を受けそれ以降はフルタイドという吸入ステロイド薬を8年間使用してきたという病歴でした。母親が「いつまで薬を続ければよいのか?」、「そもそもうちの子は本当に喘息なのか?」ということを不安・疑問に持ち、当院を受診されました。話をきいてみると、驚くことに「これまで一度もゼーゼーしたことはない」とのことです!咳が出るのは喘息が原因だからということで、吸入ステロイド薬が開始されたようですが、開始前も開始後もさほど困るほどの症状ではなかったので、母親はどれだけ薬が効いているのかもわからないということです。採血上アレルギー体質はなく、肺機能も正常だったので、いったん吸入ステロイド薬は中止して様子をみることにしました。もしかしたらこのお子さんは最初から喘息でも何でもなかったのかもしれませんが、こういうケースを安易に誤診とは言えません。なぜなら、最初に診察し診断した医師にしかその時の状況はわからないからです。
小児科で言いますと、小さなお子さんの咳やゼーゼーは鑑別診断が難しいのは事実です。単なる気管支炎なのか?、喘息なのか?、はたまた生まれつきの気道の病気なのか・・・、などあれこれと考えて区別していかなければなりません。
それでは、喘息が疑われるけれどはっきりしない小さなお子さんではどうすればよいのか?一つの方法として、早めに予防的な治療を開始してもよいが、症状が落ち着いていればやはり早めに治療を緩めたり中止したりしてあげることです。我々の言葉で言えば、症状がなければ早期にステップダウンせよということです。一方で、「本物の喘息」では簡単に治療が中止できない場合があるのでそのような点を理解していただくことも重要と考えています。