インフルエンザは冬季に流行をくり返し、人口の5~20%が罹る感染症です。お年寄りにとっては重要な死亡原因となりますし、小さなお子さんの場合はインフルエンザ脳症(けいれん・意識障害などの症状が出ます)という重い合併症の危険性もある病気です。インフルエンザから身を守るためにインフルエンザワクチンを接種している方が多いと思いますが、卵アレルギーがあるという理由でワクチンの接種をあきらめてしまっているということはないでしょうか。卵アレルギーがある患者さんに対してインフルエンザワクチンを接種することはそんなに危険なことなのでしょうか。
インフルエンザワクチンは製造する過程で鶏卵を利用するので、ワクチンに鶏卵成分が残存しています。しかし、その残存量は極めて微量(ng/mlレベル)であり、アレルギー反応を起こす確率も非常に低いと考えられます。ng(ナノグラム)という単位はどれだけの量でしょうか? g(グラム)の千分の一がmg(ミリグラム)、その千分の一がμg(マイクログラム)、さらにその千分の一がngです。とにかく非常に少ない量だというのがおわかりになると思います。特にわが国で製造されるワクチンは高度に精製されているので、鶏卵由来成分は極めて微量なものとなっているのです。
ガイドラインにおいては、必要に応じてワクチン液を用いた皮内反応を試みるように記載されていますが、やや疑問を感じるのは皮内反応の結果が強陽性であればワクチンの接種を中止しなければならないというニュアンスで書かれている点です。偽陽性も含まれるのではないでしょうか?皮内反応の結果と実際のワクチン接種後の副反応の関係についてデータを蓄積し明らかにされていかなければいけないかと思われます。
そもそも卵アレルギー児はその後の喘息発症率が高いわけですから、こういう患者さん(卵アレルギーの患者さん)ほどインフルエンザワクチンを接種してあげなければいけないと思うのです。喘息とインフルエンザの関係について話題になっているのはご存じでしょう。
食品衛生法においては、アレルギー物質を含む食品表示を要する含有量として数μg/ml濃度レベルを症状を誘発しうる最低レベルと定めています。この食品表示基準から考えてもng/mlが危険な濃度レベルとは思えません。もちろん、食べることと注射することは異なるかもしれませんが・・・。