後半に書かれている、「アレルギーの原因である食べ物を完全に除去するのではなく、できるだけ食べる方向に持っていくという方針を明確に打ち出した内容になる」の部分が必見ですね。
「あなたの健康百科」by メディカルトリビューンより
2012年、東京都調布市の小学校で食物アレルギーのある女子児童がアナフィラキシー(短い時間に強いアレルギー反応が全身に現れること)を起こして亡くなったのをきっかけに、アナフィラキシーへの関心が高まった。食物アレルギーは決して珍しいものではない今、誤ってアレルギーのある食べ物を口にしてアナフィラキシーを起こした人に遭遇する可能性は誰にでもある。近くにいる人が迅速に適切な対応をとれるかどうかが生死を分けるため、最低限の知識は身につけておきたい。医師向けのアナフィラキシーに関するガイドライン(指針)をまとめた国立病院機構相模原病院臨床研究センターアレルギー性疾患研究部部長の海老澤元宏氏によると、指針には医療従事者でなくてもできるアナフィラキシーへの対応も示されているという。同氏が「一般の人にも知っておいてほしい」と強調するアナフィラキシー対応で求められる4つの行動を紹介する。
最も多く発生する場所は「自宅」
海老澤氏は、調布市の死亡事故を受けて日本アレルギー学会が2014年に公表した医師向けのアナフィラキシーに関する指針をとりまとめた。この指針によると、アナフィラキシーを起こす原因として最も多いのは食べ物だが、薬を飲んだ後やハチに刺された後にもアナフィラキシーを起こすことがあり、これらの場合は特に重症化しやすいという。
また、アナフィラキシーを起こしやすい食べ物は、わが国では鶏卵や乳製品、小麦、ソバ、ピーナツなどだが、欧米諸国ではピーナツやナッツ類を原因としたアナフィラキシーが多いとされている。なお、調布市の死亡事故から学校で起こりやすいイメージがあるアナフィラキシーだが、実際には食物によるアナフィラキシーは自宅で発生するケースが最も多いという。
そもそも、アナフィラキシーとはどのようなものなのだろうか。同学会の公式サイトによると、代表的な症状として以下が挙げられている。
◾皮膚の症状(急に皮膚が赤くなる、むくむ、じんましんが出る、かゆくなるなど)
◾呼吸器の症状(咳が止まらなくなる、ぜーぜーする、息をするのが苦しくなるなど)
◾消化器の症状(お腹が痛い、気持ち悪くなる、吐く、下痢が止まらなくなる)
◾血圧低下を伴うショック、視野が急に暗くなる、しびれる感覚、脱力感、のどが締め付けられ詰まる感じなど
すぐに「助けを呼ぶ」「エピペン注射」「仰向けに寝かせる」
日本アレルギー学会の指針には、こうしたアナフィラキシーが起こったら、まず始めに対応すべきこと(初期対応)として8つの行動が示されているが、このうち以下の4つについては「一般の人にも身近にアナフィラキシーが起こったときの対応として知っておいてもらいたい」と海老澤氏は強調している。
1.バイタルサインの確認:全身(ぐったり、意識もうろう、尿や便を漏らす、脈が触れにくいまたは不規則、唇や爪が青白い)、呼吸器(のどや胸が締め付けられる、声がかすれる、息がしにくいなど)、消化器(強いお腹の痛みが続く、繰り返し吐き続ける)の症状を確認
2.助けを呼ぶ:救急車を要請
3.(もし本人が携帯していれば)アドレナリン(エピペン)の筋肉注射:必要に応じて5~15分毎に再投与する
4.患者を仰向けにする:30センチメートル程度、足を高くする。呼吸が苦しいときは少し状態を起こす。嘔吐しているときは顔を横向きにする
なお、海老澤氏らは現在、アナフィラキシーへの対応を含む食物アレルギー全般に関する新しい医師向けの指針を作成中だという。新指針では、アレルギーの原因を調べる検査法として従来の方法よりも正確な「アレルゲンコンポーネント検査(従来の抗原を調べる皮膚や血液の検査ではなく、抗原に含まれる特定のタンパク質のみを調べる検査)」が勧められる見通し。さらに重要な改訂ポイントとして、同氏は「アレルギーの原因である食べ物を完全に除去するのではなく、できるだけ食べる方向に持っていくという方針を明確に打ち出した内容になる」と説明。アレルギー専門医による負荷試験(原因の食べ物を少しずつ体内に入れて反応を確認する検査)や負荷試験後の栄養・食事指導を通じて、必要最小限の除去にとどめるという原則がより強調されることになりそうだ。