食物アレルギーに対する経口免疫療法は、この数年間で報告が急増し、それなりの有効性が示されています。この治療法については、「食べれば食物アレルギーは治る」というタイトルで2010/4/22と2010/4/29に少し紹介しました。
もちろん全ての患者さんが魔法の如く治ってしまうわけではありません。ほとんどは単なる減感作状態(症状が出にくいような状態)の誘導であり、真の耐性化を得られる症例は必ずしも多くないのではないかとも考えられています。しかし、実際に少しずつ食べさせてみると今まではわずかな量でアナフィラキシーを起こしていたような患者さんでも、意外なほど多くの量を体が受け入れるようになる症例が数多く認められ、画期的な治療法であると思われます。
今回考えてみたいのは、この「食物アレルギーに対する経口免疫療法」の定義です。実際には、食物アレルギーに対する経口免疫療法の明確な定義などというものはまだ存在しないわけですが、患者さんの間で、あるいはまた一般の医師の間でさえも経口免疫療法という治療法のとらえ方が混乱しているようにみえるので、少し考えてみたいと思ったのです。
まずこの治療法の呼び名ですが、「経口耐性誘導療法(specific oral tolerance induction;SOTI)」とか、「経口減感作療法(oral desensitization)」などいくつかの用語が用いられていますが、最近の国内では「経口免疫療法(oral immunotherapy)」が多く使用されているようにみえます。いずれにせよまだ統一された呼び名は存在しません。
さて現段階では、食物アレルギーに対する経口免疫療法とは、「5-6歳以上で自然寛解が困難であると予想されるある程度重症度の高いような食物アレルギー患者さんに対して、誘発閾値以下の少量から漸増摂取させ減感作状態あるいは寛解を誘導するような治療法」を指しているように思われます。「ある程度重症度の高いような」は余分な表現かもしれませんが、このまま放っておいたら(つまり、完全除去を続行したら)いつまでたっても食べられそうもないと思われる患者さんに対してあえて積極的に負荷していくという緊張感を伴うイメージなのです。当然治療にはリスクを伴うわけです。
重症度が高いと考えられる患者さんに対しては、2-3歳くらいから摂取させた方が免疫療法としての有効性がより高いのではないか? とか、乳児期から積極的に摂取させれば自然寛解が早まるのではないか? などの考え方が思いつきますし、実際にその通りなのかもしれませんが、まだまだエビデンス(科学的証拠)が不十分です。少なくともこれらのパターンを経口免疫療法に含めてよいのかどうかもわかりません。このあたりはまだ微妙なところです。決して早期から食べさせることが間違っていると述べているのではなく、自然寛解(除去の有無にかかわらず自然に治っていく)例も含まれてしまうので、免疫療法とは言い難い例が混入してしまう可能性もあるのです。