食物アレルギーに対する衝撃的な治療法が注目されています。これまでの食物アレルギーの主な治療法と言えば、除去食療法つまりアレルギーの原因となる食品の摂取を避けることしかありませんでした。さらには、患者さんの恐怖を煽るような指導も行われてきました。「危ない」、「触れるな」、「命の危険性がある」というものです。食物アレルギーによる症状が全く危なくないというわけではありませんが、完全除去によってかえって過敏状態が改善せず持続されるという可能性もあるのです。さて、本題の治療法ですが、重度の食物アレルギーに対しても、ただひたすら除去を続けるのではなく、むしろ少しずつ食品を経口摂取させていくことにより身体を慣れさせ食べられるようにしてあげる治療法を指します。国内でも2-3年前からいくつかのアレルギー専門施設でこの治療法が行われるようになり、その成果が報告されています。とにかく、今まで全く卵が食べられなかったようなお子さんが、10日間くらいの治療で卵1個が食べられるようになってしまうということなので驚きです。
海外ではこの治療法はSpecific oral tolerance induction(SOTI)と呼ばれているので、ストレートに訳せば「特異的経口耐性誘導療法」ということになるかと思いますが、まるで対抗するかの如く「経口減感作療法」と表している施設もあります。やや不安な点を挙げるとすれば、治療経過中にアナフィラキシーを発症することが少なくないということがあります。この治療法自体に無理な点があるのか、それとも方法を工夫すればアナフィラキシーを防げるのかどうかはわかりません。「当院は・・日で食べられるようになった」などと治療日数を争うようになっている雰囲気も感じられますが、日数などよりもより安全な経過を優先すべきでしょう。まだ研究段階の治療法なので、チャレンジはやむを得ないかもしれませんが・・・。
一方で、このような治療法に対して慎重な姿勢をとられる専門医も少なくありません。「食品そのものを使用して免疫療法を行うことは安全性に問題があるのではないか?」、「経口負荷試験は“検査”であるから時にはアナフィラキシーもやむを得ない。しかし“治療”として行う経口減感作療法においてアナフィラキシーが稀ではないという考え方はおかしくないか?」、「低アレルゲン化した食品などを用いたより安全な免疫療法が開発されるまで時期を待つべきではないか?」ということです。医師として、患者さんに対して行う治療の安全性を最優先するという考え方は、もっともなことでありこれもまた尊敬すべき姿勢です。ただ、食べられずに困っている子どもたちがたくさんいることも事実であり、私としては偉大な先生方の研究成果を待つのみです。