母親は、「どうして我が子はアトピー性皮膚炎になってしまったのだろうか?」と悩みます。「妊娠中の食事が悪影響したのだろうか?」、「これまでの生活環境が良くなかったのだろうか?」と原因を探ろうとしますが、とにかく自分を責めてしまう傾向にあります・・・。
確かに、アトピー性皮膚炎の発症に遺伝的要因が大きく関与している可能性はあります。家族、つまり母親や父親、兄弟姉妹がアレルギー対質をもっていれば、本人がこの体質を受け継ぐ確率も高まるのです。決して母親だけから遺伝的影響を受けるわけではなく、父親からの影響も受けるのです。お母様方は自分を責める必要はありませんし、そもそも誰が悪いとかいう問題ではないはずです。
最近、皮膚のバリア機能に必須のタンパクであるフィラグリンの遺伝子変異が報告され、アトピー性皮膚炎の発症に大きく関与している可能性が注目されています。日本人のアトピー性皮膚炎の患者さんにおいても約30%はフィラグリンの遺伝子変異を持っているという研究結果があります。
フィラグリンの遺伝子変異による皮膚のバリア障害が発症因子となっているアトピー性皮膚炎の患者さんに対しては、保湿剤をしっかり外用するなど、バリア障害を改善する治療法が、有効であると考えられます。さらに、乳児期に、フィラグリンの遺伝子変異を持っているお子さんを特定して、バリア機能をできるだけ損なわないように生活指導することによって、アトピー性皮膚炎になることを未然に防ぐことができるかもしれないのです。
さて、アトピー性皮膚炎の原因・悪化因子として、汗・乾燥・細菌・食物・ダニ・ペット・ストレス等様々なものがあります。これらは、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させたり、遷延化させたりする要因となります。遺伝的な要因にこれらの環境要因が加わってアトピー性皮膚炎の病態が形成されていくのです。
「なぜアトピー性皮膚炎になってしまったのですか?」と患者さんに質問されたとしたら、「アレルギー体質や皮膚のバリア機能障害などを遺伝的に受け継いでいるのかもしれません。そのため、汗・乾燥・細菌・食物・ダニ・ペット・ストレス等の様々な刺激から皮膚がダメージを受けやすくなっているのです。」という回答になるでしょうか。文章で表現すると難解になってしまいます。外来ではもう少し易しく説明しなければいけませんね。