近年、食物アレルゲンの経皮感作の重要性が指摘され始めています。すなわち、食物アレルギーになってしまうきっかけとして、食物アレルゲンが口から入ってくることよりも、皮膚から接触侵入する経路の方が重要なのではないかということです。卵アレルギーであれば、母乳などを通じて赤ちゃんが卵を摂取したから卵アレルギーになったのではなく、皮膚(特に、アトピー性皮膚炎などのバリア機能の低下した皮膚)に卵が付着することが発症のリスクになっているのかもしれないのです。疾患の因果関係で言えば、食物アレルギーがあるとアトピー性皮膚炎になるのではなく、アトピー性皮膚炎があると食物アレルギーになってしまうのかもしれないという話になってきているのです。この2つの疾患の関係はまだまだ謎めいているところが多く、今回はこれ以上ふれません・・・。
食物アレルゲンの経皮感作を示唆するデータや出来事はいくつか出てきています。
例えば、バリア機能の低下した皮膚の存在やピーナッツオイルを含むスキンケア製剤の使用がピーナッツアレルギーの発症に関連するという報告があります。また、家庭内のピーナッツ消費量が多いことが、危険因子になるという報告もあります。そのような家庭ではピーナッツの食べかすのようなものがより多く存在するので皮膚に触れる機会も増えてしまうということです。
何よりも、『茶のしずく石鹸』の使用で発症した小麦アレルギー患者さんの問題は、我々に経皮感作の存在を証明した出来事と言えます。皮膚や粘膜から吸収された加水分解小麦に感作されて発症する小麦依存性の運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)は、経口感作によるWDEIAと異なりω-5グリアジン特異的IgE抗体が検出されないことが特徴とされています。国内において同様の症例が相次いで報告されており、社会問題にまで発展している状況です。
さて、気になるのは小児の食物アレルギーにおける経皮感作の意義の大きさです。特に、乳幼児の食物アレルギーの感作経路として経皮感作はどれだけのウエートを占めているのでしょうか? もしも乳幼児の食物アレルギーの大多数がアトピー性皮膚炎の皮膚からの経皮感作で発症しているのだとしたら、新生児期からの徹底したスキンケア等で乳児アトピー性皮膚炎の発症を抑制することで、大幅に食物アレルギーの患者さんを減らすことができるかもしれません。これは小児科医や皮膚科医の夢ですが、そんなに単純なことではないかもしれないのです。5年後、10年後がどうなっているのかに注目したいと思います。