=2013/10/23付 西日本新聞朝刊=
●エピペン注射 迷わずに
東京都調布市の小学校で昨年12月に給食を食べた小学5年の女児が、乳製品の食物アレルギーによるアナフィラキシーショックで死亡した事故が教育現場に波紋を広げている。食物アレルギーとはどんな病気なのか。どうすれば悲劇を防げるのか。アレルギー疾患に詳しい福岡女学院看護大学(福岡県古賀市)の西間三馨学長に聞いた。
食物アレルギーの小学生は増えています。2004年の文部科学省の全国調査によると、医師に食物アレルギーと診断された児童は2・8%、アナフィラキシーを起こしたことがある子は0・15%。西日本小児アレルギー研究会で昨年、九州・沖縄など11県で調査したところ、食物アレルギーは3・56%、アナフィラキシーは0・81%でした。
ところが、食物アレルギーの詳しい仕組みや増加の原因ははっきりしない。世界にどれだけ患者がいるかも把握できていない。分からないことが多い病気なんです。他のアレルギー疾患は、ぜんそくは気管支、アトピー性皮膚炎は皮膚と、治す標的の器官や組織が明確。薬が進歩し、治療が可能になりました。食物アレルギーは全身のどこに症状が出るか分かりません。標的がないから病気を根本的に治す薬がない。現在、一部の専門医が食物アレルギーの原因食材を子どもたちに少しずつ食べさせて、耐性を高める新たな治療法を研究していますが、まだ確立されていません。アレルギー原因の食材がたくさんあって、増えていて本当に混沌(こんとん)としているのです。
正直言って、私を含めて専門家のほとんどが食物アレルギーで亡くなるとは思っていなかった。だから、医師でもない学校の先生が食物アレルギーのすべてを知っておかなければならないというのは酷です。調布市の死亡事故を受けて教育現場は萎縮してしまっています。ただ、ショック症状は血圧を上げる注射薬「エピペン」で改善できます。だから、学校の先生に言いたいのは、ショック症状が起きたらとにかくエピペンを打ってほしい。そこだけは覚えてほしい。
児童にどんな症状があればエピペンを注射するのか、先生が判断するのは困難です。そこで「日本小児アレルギー学会」では7月、アナフィラキシーを疑うケースで、エピペンを使用すべき13の症状を発表しました。「意識がもうろうとしている」「声がかすれる」などが一つでもあれば、迷わず打ってください。もしエピペンを打って、アナフィラキシーではなかった場合でも、まず子どもには害はありません。
私が座長を務める文科省の有識者会議は来年3月に、詳しい事故防止対策、緊急時の対処方法を示す予定です。食物アレルギーの子が普通に学校で過ごし、先生も伸び伸びと子どもたちと接する-。そのためにどうすればいいのか、考え続けます。 (談)
▼にしま・さんけい 福岡県出身、69歳。九大医学部卒。医学博士。福岡女学院看護大学長、国立病院機構福岡病院名誉院長。日本アレルギー学会理事長、日本小児アレルギー学会理事長などを歴任。2008年に日本学校保健会が発行した、食物アレルギー対策などを載せた「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」作成にも携わった。