かなり昔のことですが、私自身が手に湿疹ができて皮膚科を受診したことがありました。多少の痒みがあって、手の皮がむけるような状態でしたが、水虫の検査は陰性でした。軟膏を処方していただき帰宅しました。医師は、1日に数回軟膏を塗ること、しばらくしたら再受診することを私に指示してくれた記憶がありますが、何と私はそのまま湿疹を放置してしまったのです。まず、手に軟膏を塗ったときのベトベトした感じがものすごく不快でした。不思議なもので今でもよく頭に残っています。軟膏を塗ったあとが熱をもったようになり、かえって痒みを感じました。また、そのような不快感もあったせいか、医師に指示された回数を塗布しませんでした。もちろん再受診もしませんでした。驚くことにこの湿疹は数年続きました。しかし、私はこの状態をそのまま放置し、2度と病院を受診することはなかったのです。そんなことをしているうちに自然に治ってしまいました。今は手はツルツルであり、何の湿疹もない状態です。
今回お話したかったのは患者心理ということです。私がこのような対応をしてしまったのには、私自身がずぼらであったということもあるかもしれませんが、一番の要因は「そんなに困っていなかった」ということにあるのではないでしょうか。患者さんといものは、「ものすごく痛い」とか、「苦しい」、「食べられない、眠れない」とか、さらには「命にかかわるかもしれない」という状況になれば自然と必死になるものです。どうにかしてそのような状況を打破したいということでしょう。当たり前の心理です。一方、置かれている状況がさほど差し迫ったものでない場合は、治療に真剣に取り組まない可能性が高まります。しかし、病気の種類によっては、現在の症状がそんなに重いものではなくても、将来的に身体へのダメージが心配されるものもあるわけです。例えば、高血圧があっても日々強い自覚症状を感じるわけではありませんが、この血圧が高いという状態を何の治療もしないで放置しておくことは好ましくないわけです。我々医師としては、「そんなに困っていないけれど治療すべき病気」を持つ患者さんにどのように対応していくかが課題となります。