アトピー性皮膚炎の治療においては、保湿剤やステロイド外用薬などの塗り薬が大きく活躍します。医師がこれらの薬を処方する場合、あるいは塗り方などを患者さんに説明する場合、実際に患者さんの皮膚に塗ったことがあるかどうかは重要になってきます。私は勤務医時代に患者さんをシャワー浴させてから保湿剤やステロイド外用薬を全身に塗ったことが何度もあります。大変手間がかかる作業ですが、非常に勉強になる経験です。全身にリント布を用いた重層療法を行えば長いと1時間くらいかかってしまいます。夏はクーラーが効いた場所で処置したとしても我々は汗だらけになります。よく、「保湿剤は入浴後3-10分以内に塗れ」とかいうアドバイスを見かけますが、それを守るには順番としてステロイドよりも保湿剤を先に塗るしか方法はありません。「保湿剤よりもステロイドを先に塗りなさい」と指示している医師は皮膚の乾燥については無視しているのでしょうか。まさか、ステロイドを先に塗りつつ、かつ保湿剤を3-10分以内に塗りなさいということなのでしょうか。そんなことは不可能です。
『ヒルドイドソフト』という使いやすい保湿剤があります。1本25gです。4-5歳のお子さんでも体表面積は結構あるものです。全身にたっぷり塗ると1回に1本(25g)なくなってしまいます。もし1日に2回塗るとしたら1週間に14本です。月にいったい何本必要となるのでしょうか。実際、以前(勤務医時代)は受診時に30-40本のヒルドイドソフトを処方していました(現在はいくつかの理由から分割して処方しています)。全身に塗りなさいと指示されながらも、月に2-3本しか処方してもらえないとしたら、どう考えても薬の量が足りないわけであり実行不可能です。
いくつかの矛盾点が生じてしまう原因として、処方している医師や説明している看護師・薬剤師が、実際に患者さんに塗った経験がないのではないかということが考えられます。自分で塗ってみて初めてわかることがあるのです。