=2013/10/16付 西日本新聞朝刊=
東京都調布市の小学校で昨年12月、乳製品にアレルギーがあった小学5年女児が乳製品の粉チーズが入ったチヂミを誤食してショック死した事故は衝撃を広げた。「給食の悲劇」をいかに防ぐか-。学校現場の模索が続く。
10月の平日、福岡市内の小学校。職員室の目立つ場所に掲示板が置かれていた。黄色地にピンクの文字で「本日のアレルゲン食品」。除マヨネーズ、くるみと書かれたカードが下げられていた。明日の欄では、えび、いか。給食の献立に使われるアレルギー原因の食材を明示しているのだ。「除」のマークが付くと原因食材を取り除いた「除去食」が用意されている意味という。
献立によって除去食を食べるようになる児童については、給食の前日に、献立を考える栄養教諭から担任に除去食の引換券が手渡される。当日朝、担任から引換券をもらった児童は、給食の時間になると給食室に行き、調理員から除去食を受け取る。さらに、教室前方の壁には、食材まで載った詳しい献立表が張られている。級友たちはそれを見て例えば「A君は卵が入った親子丼は食べられません」と声に出して確認。A君が誤って卵入り親子丼を食べないよう配慮する。担任も卵抜きの除去食を食べているか目を光らせる。
何重ものチェック網。考案したのは女性の栄養教諭。5年前に始めたが、参考となるひな型はなかったため、近隣の栄養教諭と相談しながら決めた。自身も給食時間になると、重い食物アレルギーのある児童のクラスを巡回する。「原因食材がある日は神経を使います。これからもアレルギーの子は増えていくと思う。しっかりやらないと…」。心配は尽きない。
学校での食物アレルギー対策は、2008年に文部科学省が監修して日本学校保健会が発行した「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」が基本となる。全国のすべての小中学校に配布されている。
しかし、東京都の事故を受けて今年5月に文科省が設置した有識者の「学校給食における食物アレルギー対応に関する調査研究協力者会議」は7月の中間まとめで、全国的に学校や教師によって対応に温度差があったことを指摘。「学校でガイドラインを活用しきれていない」「一部の教職員を除き意識が低かった」としている。
ただ、ガイドラインはA4判85ページに及び、内容も専門的だ。児童・生徒の指導などで多忙な教職員が読み込む余裕がなく、医学に素人の教職員が理解するのは困難という声が現場では以前からくすぶっていた。
食物アレルギーの誤食事故を防ぐには、原因食材を子どもが口にしないよう徹底することに尽きる。総論的な知識でなく具体的な対策が求められるだろう。有識者会議も「学校個々の状況に見合ったマニュアルづくりを促進し、すべての教職員がガイドラインの内容を理解できるよう分かりやすくまとめた資料を作成することも必要だ」と問題提起。文科省は来年3月予定の最終報告を受け、ガイドライン改訂などにつなげる方針だ。
「牛乳が体にかかっただけでもショックを起こします。学校にはまだ相談していなくて不安です…」
アレルギーの子がいる親の自助グループ「福岡アレルギーを考える会」(野田朱美会長)が9月、福岡市で開いた小学校入学前の子どもがいる家族を対象にした相談会。牛乳のアレルギー反応で意識が低下し命の危険もあるアナフィラキシーショックを起こす長男が来春小学校に入学するという同市の主婦(42)は涙ぐんだ。
会場には給食の時間に毎日、学校へ息子の様子を見に行くという母親(41)の姿もあった。アレルギー原因の食材を子どもたちが口にしないようどんなに注意を払っても誤食の危険性はゼロにはならない。だからこそ、誤食した場合に備えてショック症状を和らげる自己注射薬「エピペン」を適切に処方できる態勢の構築も必要だ。「緊急時の役割分担を決めてエピペンを打つ訓練を徹底してほしい」と野田会長は母親の切実な願いを代弁する。