AERA 2016年3月7日号より
多くの人を悩ませるアレルギーのひとつ、アトピー。実はこの予防には、生後間もない時期のスキンケアが重要だという。
小児科病棟の浴室で、普段と同じように子どもの体を洗い、保湿剤や軟膏(なんこう)を塗る母親。その後、アレルギーの専門知識を有する小児アレルギーエデュケーターの看護師から正しいスキンケアを教わり、実践してみる。
「こんなに軟膏を塗るんですね」
思わず驚きの声が上がる。大和市立病院(神奈川県)の「スキンケア日帰り入院」の一コマ。外来診療を補おうと、2013年12月に始めた。自治体の小児医療費助成制度が適用されると、費用は昼食代の270円のみ。すでに十数人が利用し、多くは生後3、4カ月の乳児だ。
「保湿剤や軟膏を少ししか塗っていなかったり、体を洗う時に石けんを使わなかったりするケースがよくあります。でも、石けんで汚れを落としたうえで保湿剤と軟膏を塗るのが正しい方法。女性が洗顔用に使うようなしっかりした泡を、洗面器いっぱいにつくって洗うのです」(同院看護師・木村あさ子さん)
汚れがたまりやすい首や足などはシワを伸ばして。耳の裏はギョーザの形にして丁寧に洗う。タオルで押さえるように拭いたら、ワセリンなど低刺激の保湿剤を全身に塗る。市販のベビーローションは注意が必要だ。
「ナッツアレルギーの子が、ナッツオイル入りのローションを使っていたケースが散見されます。市販品は無添加を選んで」(同院小児科・只木弘美医師)
いま、乳児のスキンケアの重要性が注目されている。多くのアレルギーのきっかけが皮膚にあることがわかってきたからだ。国立成育医療研究センターの斎藤博久医師はこう話す。
「保湿が不十分だと、皮膚のバリアー機能が低下します。皮膚からアレルゲンが侵入してIgE抗体がつくられ、次にアレルゲンが入るとアレルギー症状が現れます。皮膚から入るとアトピー性皮膚炎、鼻からだと花粉症、のどからだと気管支ぜんそくになるのです」
11年に社会問題となった「茶のしずく石鹸」は、皮膚から小麦の成分が入り込んだことが原因だ。逆にいうと、皮膚のバリアー機能さえ保たれていれば、アレルギー症状を予防できる。
同センターで、一日1回保湿剤を全身に塗布した新生児(59人)と、乾燥した局所のみワセリンを塗布した新生児(59人)を比較した結果、全身を保湿した新生児はアトピー性皮膚炎の発症率が3割以上低かった。
「IgE抗体のできていない生後6カ月までを目安に、しっかり保湿することがアレルギー予防に大切です」(斎藤医師)
アトピーは、成長とともにぜんそく、花粉症などほかのアレルギー疾患が連鎖的に起こる「アレルギーマーチ」の起点だ。乳児期に十分なスキンケアを行うことで、先々のアレルギーを予防できる可能性もある。