「ちょっと食べてみたら」と医師の指示を受けてアレルギー症状を呈し、それをきっかけとして当院を初診する患者さんが続いています。
最近経験した2例です。あえて年齢等の詳細は記載しませんが、いずれの例も卵白の特異的IgEが高値で、要するに『侮れない症例』でした。
1例は、ある医院の外来でゆで卵白を少量(正確な量は不明です)与えられました。その時は何も症状が出なかったようです。「明日からこの量を食べさせて」と指示され、摂取開始2日目には全身の蕁麻疹、咳込みがみられたとのことです。母親にとって「予想もしなかった出来事」だったようです。なぜなら、起こり得る症状について医師からの説明がなかったからです。
もう1例は、別の医院の症例ですが、鶏卵をちょっと食べてみるように指示を受け、やはり全身の蕁麻疹が出現してしまいました。あわてて母親がその医院に電話連絡をしたところ、「予約が一杯で今は診察ができません。皮膚科に連れて行って下さい。」と言われたとのことです。当然ですが、お母様はひどく憤慨されております。
反省点は何でしょうか?
1例目では、やはり食べさせてみようと言うのなら、食物経口負荷試験という手順をしっかり踏むべきでしょう。閾値(いきち;症状が出現するレベル)が確認できるところまで負荷することが基本です。1gだけ負荷し、「明日から自宅で1g食べるように。」という指示は高等戦術です。その患者さんの状況を十分に把握できている専門医だけが出せる指示なのです。また、起こり得る症状やその対処法についての説明も必須です。もう1例については問題外です。時間外であれば仕方ないかもしれませんが、指示を出した責任を持つべきでしょう。
いずれの例においても、「最近は少しずつ食べていくことが食物アレルギーの治療方針になっている」みたいな話をされているようです。この「食べて治す」とか、「ちょっと食べてみる」という言葉が巷を混乱させているという話を聞いたことがあります。しかし、アレルギー専門医が混乱を招いたというのでしょうか? 問題があるのは浅薄な理解で、実践してしまう非専門医の方だと思いますがどうでしょうか? 専門医が非専門医を惑わせたのではないかと反論を受けそうですが・・・。とにもかくにも子どもたちを守るという視点が重要だと思います。このような状況のおかげで、ここ最近はつらく、悲しく、悔しい気分です。この問題は多方面に影響が出ているのです・・・。
現在、食物経口負荷試験は食物アレルギーの最も確実な診断法として重要な位置づけにあります。まずは、安全かつ確実な食物経口負荷試験を実施するところから始めることが基本線でしょう。それが不可能ならきちんと専門医に紹介するのが良いかと思います。さらには、あえてちょっと食べてみてと言うのならその後の責任を持つべきです。