タイトルの内容は、2012年1月24日朝日新聞のニュースの記事であり、既にみなさんご存知だと思います。
記事の一部を紹介しますが、「食物アレルギーの原因となる食物を食べて治す「経口免疫療法」と呼ばれる治療法を受けても、治ったと言える患者は1~5割程度にとどまり、重い副作用を経験する例も多いことが、厚生労働省の研究でわかった。研究班は診療指針を改定し「現時点で一般診療として推奨しない」とした。」とのことです。
この「1~5割」という数字には多くの患者さんが戸惑いを受けたかと思いますが、知り合いの患者さんの中には冷静に分析されている方もいらっしゃいます。
この分析内容には私も共感します。
○最重度の食物アレルギー児が全国から集まる病院での「急速」経口免疫療法のみのデータだから、ちょっと厳しめの数字になるのは 仕方ないかも・・・
○治った(寛解)患者さんの割合は高くないかもしれないけれど、見かけ上無症状(減感作状態)の患者さんなら結構いるので、必ずしも悲観的にならなくてよいのでは?(記事に、「食べ続けている間は症状がでない状態なら70-80%」とある。)
○このデータに、ゆっくり自宅で食べ進める緩徐法も含んだら、もう少し治療成績が上がるのではないか?。
○治療1年の時点で見たら10%(牛乳の成績)でも、2-3年経過をみたらもう少し治る患者さんの割合が上がってくるのでは?
さて、私の考えるところをいくつか付け足したいと思います。
あくまでも疑問点を提起しているだけであり、「これが確かだ」と述べているわけではありません。誤解なされないようお願いしたいです。
▽食べ始める年齢の影響などはないでしょうか? たとえある食品に対して食物アレルギーが証明されたとしても、できる限り早い時期、つまり乳児期くらいから食べさせるとより寛解を誘導しやすいのかもしれません。しかし、小さなお子さんにアレルギー症状を誘発するリスクがあること、より早く寛解が誘導されるエビデンス(科学的証拠)が存在しないことなどを考慮すると安易な指導はできません。
▽食品による治療成績の差はみんなが疑問に思っていることです。なぜ、牛乳は難しいのでしょうか?
▽急速法は緩徐法よりも寛解率が高いのでしょうか? 私は花粉症の患者さんに対して皮下注射の免疫療法を実施してきましたが、私が認識している範囲では、有効性という点に関しては急速法(入院して短期間で増量)と従来法(外来で週に1-2回の注射を実施し、ゆっくり増量)で有意な差は認められないはずです。あくまでも急速法のメリットは、維持量までの期間が短縮されるという点であり、こと副反応という点では明らかに急速法の方がリスクが高いのです。花粉症の皮下注射免疫療法(SCIT)と食物アレルギーの経口免疫療法(OIT)は異なるのでしょうか? このような点についても知りたいところです。
▽経口免疫療法の臨床研究を行う場合、どうしても急速法を選択せざるを得ないという問題があります。例えば、緩徐法で(二重盲検法の)プラセボ対照試験を実施するとしたら、プラセボ群の患者さんは数カ月に渡って偽物の食品を与えられ続けることになります。これはあまりに可哀相な話であり、倫理的に問題がある方法ということになるのです。また、緩徐法だと自然寛解の患者さんが含まれてしまう可能性もあるのです。免疫療法で治ったわけではないかもしれないということです。