「NHK/NEWSweb」 12月16日
食物アレルギーがあると学校に届けられている子どもは45万人余りと全体の4.5%に当たり、9年前の1.7倍に増えていることが文部科学省の調査で分かりました。
一方で、医師の診断書などが提出されているのは20%余りで明確な根拠がないまま対応している可能性も示されました。
この調査は、去年12月、東京・調布市の小学校で食物アレルギーのある女子児童が給食を食べたあとに死亡した事故を受け、文部科学省が全国の公立の小中学校と高校を対象に9年ぶりに行いました。
この結果が16日に開かれた有識者会議で報告され、食物アレルギーがあると学校に届けられている子どもは45万3962人と全体の4.5%に当たり、9年前(2.6%)の1.7倍の割合に増えていることが分かりました。
しかし、このうち医師の診断書などが提出されているのは21%にとどまっていて、明確な根拠がないまま対応している可能性も示されました。
委員からは「医師がしっかり検査をせずにアレルギーの可能性を示唆したことで、保護者が心配して学校に届け出るケースもあるとみられる。専門医の育成が必要だ」といった意見が出ていました。
また、50校に1校の割合で抽出して調べたところ、579校のうち519校で合わせて4244人の子どもに食物アレルギーがあるとして何らかの対応を取っていました。
このうち、アレルギーの原因となる食材を取り除いた給食を提供されている子どもは39%、原因食材を取り除いたうえで別の食品で栄養を補う「代替食」を提供されているのが22%、子どもが自分で原因食材を取り除いて食べているケースが28%、弁当を持参している子どもが11%でした。
また昨年度1年間にアレルギーの原因食材を誤って食べてしまう「誤食」が40件起き、このうち8件でアレルギー症状が出て、薬を注射したケースも2件あったということです。
有識者会議はこの調査結果も参考に議論を重ね来年3月までに具体的な対策をまとめることにしています。
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給食施設の整備など進めるべき
有識者会議の委員で子どものアレルギーに詳しい昭和大学医学部の今井孝成講師は「調布市の事案をきっかけに保護者の意識が高まったため届け出数が増えたとみられる。適切な対応をするためにも診断書などの提出を徹底するとともに、栄養士などの人員配置や給食施設の整備などを進めるべきだ」と話しています。
給食の対応を改めるところも
食物アレルギーを巡り、医師の診断書など明確な根拠がないまま給食の対応を行っていた学校の中には、こうした対応を改めるところも現れています。
このうち横浜市立小机小学校では、以前は保護者の申告だけでも児童を食物アレルギーと判断し、給食から原因とされる食材を取り除いていました。
しかし、「卵にアレルギーがある」と申告していながら「うずらの卵やアイスクリームは食べられる」など本当にアレルギー症状が出るのか疑わしいケースは少なくなかったと言います。
このため学校では今年度から医師の診断がなければ給食のアレルギー対応はしないように改めた結果、申告が2割ほど減り、重い症状の子どもの対応に集中できるようになったということです。
酒井均校長は「より確実な情報に基づいて学校が判断したいということで決断しました。緊急時の対応も子どもによって違うので、そのためにも正しい診断に基づいて的確に対応できるようにしたい」と話していました。
専門医不足が混乱に拍車
食物アレルギーを正しく診断できる専門の医師の不足が混乱に拍車をかけている実態もあります。
さいたま市民医療センターを受診した小学校6年生の女の子の母親は、これまで別の診療所などで受けた血液検査で少しでも反応が出たものはすべてアレルギーと申告し、20種類近くの食材を給食から取り除いてもらっていました。
しかし、血液検査ではアレルギーの疑いがあることまでは分かっても、本当に症状が出るかは、その食材を食べてみなければ分かりません。
このため母親は、本当にアレルギーがあるのか専門医に調べてもらうことにしました。
このうち「ごま」の試験では、米粒ほどの量からスタートして食べる量を少しずつ増やしていった結果、4グラム食べても症状は出ませんでした。
この病院では、こうした試験を受けた子どものうち、実は何の症状も出ないケースはおよそ半数に上るということです。
食物アレルギーに詳しい国立病院機構相模原病院の海老澤元宏医師は「血液検査が出たあとの指導が十分できていないという状況があるのが問題です。食物アレルギーに関する知識を一般の医師に広めてレベルアップを図るとともに専門医と連携して診断や治療ができる体制作りが必要だ」と話しています。